韓国・ソウルの安国(アングク)を歩くと、建物の「時間」が折り重なったような不思議な街並みに出会う。
瓦屋根の伝統家屋(韓屋/ハノク)が連なる一角に、ガラス張りのカフェや、ミニマルな内装のショップが並んでいる。
けれど、それは古いものを壊して新しくしたのではなく、既存のかたちを活かしながら、
そっと新しい空気を吹き込んだようなリノベーションだった。
歩きながらふと覗き込むと、外観は韓屋のままなのに、
中ではバリスタがエスプレッソを淹れていたり、ギャラリーのような静けさが流れていたりする。
そのミックスのバランスが絶妙だった。
また、このリノベーションの風景が街全体に広がっていることが印象的だった。
リノベーションというと、一般的には「建物単体の話」として語られがちだけれど、
このエリアではむしろ街並み全体がリノベーションの風景として一体感を持っている。
路地にあるお店の看板や植栽のあしらいも含めて、建築が街とつながっているように感じられた。
少しエリアを移して、ソウル・聖水(ソンス)でも興味深い事例に出会った。
TAMBURINS(タンバリンズ)の店舗では、建物の上屋の構造体の柱と梁だけをスケルトンで残し、
その1階の一部にガラスのエントランスを挿入。地下にはショールームを設けるという構成になっていた。
商業地で、しかも高級ブランドが並ぶ立地で、床面積を増やすのではなく余白をつくる選択。
それはむしろ、このブランドが持つ空気や思想を強く印象づけていた。
大胆だけれど、どこか控えめで、風景に溶け込んでいくような佇まいだった。